タケル・イダイヤの冒険

とにかく感想

スキップとローファー<9>(漫画)(著:高松美咲)の感想

スキップとローファー9巻もまた、予想を裏切らない最高のクオリティだった。私の種々雑念は圧倒的さわやかな尊さによって消し飛ばされ、そしてそれが心を満たした。

そもそも、スキップとローファーについて9巻から書きだす事がいかに本作に対して不誠実であるのかを私は理解している。 何故なら本作は1巻1話目から何らのスタンスを変えず、多様な出自・性別・趣味嗜好を持つキャラクター達をこれでもかというくらい解像度高く、それでいて決して 不快に感じさせずそして連続性をもってその成長を描いているからであり、今後全体についての語りを行うことは必至なのであるが、ともかく今回は9巻について書かせていただく。

9巻はみつみ以外の、今までしっかりと焦点の当たっていなかったレギュラーメンバー(山田、ふみ、真春など)が主役になる場面が多く、胸一杯な展開の連続なのであるが、 巻全体に漂う高揚感の創出に貢献しているのは間違いなく、学園漫画におけるキラーコンテンツ「旅行」編が描かれているということだろう。 また、一般的に修学旅行がそれを担うところを、みつみの故郷である石川県珠洲市の実家への旅行という、期待を禁じ得ないコンテンツで代替している。

忘れられない夏をみんなと過ごしたいという本音を素直に口に出せるみつみに感心し、羨ましく思うのと同時に、一歩を踏み出す勇気を私に与えてくれたことに感謝した一幕である。 そしていよいよ、珠洲市組と東京組の出会いの瞬間。本来ならば自分の親友と兄弟の対面という、はっきり言ってそうでもない場面ではあるのだが、今巻の主人公の一人、真春の反抗期、そして東京で悠々自適に青春を謳歌しているのであろうという想像から来る姉への嫉妬を知っている読者は、実際に憧れの大都市「東京」からやって来たお洒落な高校生の男女に思わず気圧されてしまう彼女に思わず感情移入してしまったのではないだろうか。 さて、真春は中学2年生。精神年齢は、子供時代に女子と比較して低いと言われている男子であり、かつ個人的にも幼かった私に換算すると少なく見積もっても高校1年くらいが妥当だと思われる。この時期というのは無駄に家族を傷つけずには居られないという相当厄介な成長過程であり、みつみが財布をプレゼントするシーンでそれを見事に表現している。「こんなん全然好かん」に飽き足らず「自分がガマンしとるみたいに言うんやめてよ!」と自ら逃げ道を塞ぎ取り返しのつかないところにまで段階を進めてしまうあたりの愚かさが本当にリアルだ。しかし、冗談的に言えば、その後素直に「財布ありがとう」と言えてしまうのは、リアリティ不足と言わざるを得ない。私の経験によれば、ここで愚かな兄弟は互いに譲らず、和解のチャンスを逃し、その後加速度的に上昇する気まずさの中で数ヶ月間を過ごすことになるからである。兄弟に関する記憶がすっぽりと抜けたただただ虚しい無駄な数ヶ月...。 待望の彼女をゲットした山田もさることながら、クール系男子として要所要所で活躍してきた迎井が素を覗かせる場面が今巻では多く見られる。 このセリフを言えるのは二人が親友という間柄である何よりの証だろう。そして、高校男子が私服を自分で選んでいるのかという問題であるが、これは割合は明らかではないが母親に選んでもらっている高校男子が確実に存在しているということを作者はよく理解している。 全読者が迎井と同じ気持ちになったのではないだろうか。 そして、今巻のメイン主人公が誰かと言えば、それは間違いなく聡介であろう。 突如始まった交際が終焉し、彼を含めた友人達との関係に重きを置くみつみとは対照的に彼女の一挙手一投足に囚われ続ける聡介が何度も描かれている。 基本的に心根が優しい聡介であるが、それでもここまで心配の表情を見せるのはみつみに親友以上の感情を抱いている何よりの証拠ではなかろうか。また、その後ふみに事情を説明するまでの好きっぷりを見せた聡介に対して、みつみを誰よりも知るふみが伝えた一言。これによって封印していた蓋が開き、溢れ出したみつみへの好意が一体どんな展開を起こすのか、期待そのままに本巻は幕を閉じる。 結局、一度目の二人の交際も未だ知らされていないミカが今後どのような行動に出るか等、今後もスキロー世界の展開から目が離せない。 サトノスケと聡介の2話からの伏線が回収されるという実は本巻でも屈指の読者が興奮したであろう場面。