タケル・イダイヤの冒険

とにかく感想

サバカンSABAKAN(映画)(監督:金沢知樹)の感想

[テレビ朝日公式「動画、はじめてみました」]チャンネルで2023年8月13日に公開されたアルピー平子×スピードワゴン小沢...《焚き火で語る》の 冒頭で両氏は一番好きな季節として夏を挙げた上で「今年の夏は何かが起こりそうな予感がするから」と言っている。実は私も全く同じ理由で夏が好きだ。 このことは何だか恥ずかしくて誰にも言ったことがないが(というか、この動画を見るまで自分でもこれが理由とはハッキリ認識していなかった)、 以外と世の男子たちの一定数は夏が来る度に、今年は何か起きそうだなんて妄想をしているんじゃないかと私は睨んでいる。

本作の忘れられない夏は、イルカを目指す冒険から始まる。自転車が原型をとどめぬ形に歪んだり、足を吊った所を助けてもらったお姉さんとサザエを 食べたりと出来事はありつつも、冒険は意外なほどあっさり終わる。しかし実際の冒険とはこういうものだよなぁとしみじみ思いながら、 ふと映画の残り時間を見るとまだ半分。忘れられない夏はまだまだ序盤に過ぎなかった。

ところで、本作の竹ちゃんの悪態はすごく良い。どういう悪態かというと、小声で素早くドギツイ悪態だ。これは子供時代に特有の悪態で、 幼いながら悪態をつくことへの抵抗感がありつつも、他に精神的ダメージを与える方法が思いつかないという事情から生まれる妥協の賜物なのだ。 具体的には掃除中のピアノ論争といちゃもん商店の場面で観られる。

イルカの冒険が終わり、二人の忘れられない夏の後半が描かれるのだが、ここでついにサバ缶が登場する。そういや出てなかったなと思っていると 竹ちゃんのお母さんが登場。ここの二人がまあ良い。幼い弟妹達と人懐っこいお母さんが平気で自分の友達の間に介入してくる事に反発を覚えつつも それらを口に出せないもどかしさを覚える竹ちゃん。そしてそんな竹ちゃんの心情を理解して気まずそうに伺う久ちゃん。本当に素晴らしい演出だ。

そんなこんなで夏休みが終わり、学校が始まる。「怪物」でも観られた、いじめられっ子と二人の時には仲良くするが、みんなの前では知らないふりをする 子供社会の悲しいリアルが描かれる。私は思わず、「久ちゃん、頑張れ!!」と声を出した。そして、竹ちゃん母のパート先の店長が粋な計らいを見せつつ、 恐らくここから久ちゃんが勇気を出して一発逆転、忘れられない夏が終わるが、二人の新たな冒険が始まるのだろうななんて思っていた矢先に、 果たしてこんな展開にする必要があったのかと憤ってしまうような、事件が巻き起こる。

この先を語るのは野暮というものだろう。それはそれとして、本作の主人公は子供だが、カッコいい大人が沢山登場する。普段は言葉の汚くぶっきらぼう だが、時折頼り甲斐があり、無償の愛を垣間見せる父。絶対に走ろうとはしない、良きライバルの内田のおっちゃん。「負けんなよ」と、その後の竹ちゃんの 境遇を知るとより心に染みる言葉を残した帽子のにいちゃん。彼らが本作に終始流れている愛情深さの創出に一役買っているのは間違いない。

本作には、私の大好きな「思想」とか「社会への問題提起」というようなものは特に登場しない。しかし、本作には友情とカッコイイ大人と夏の冒険と 海とたっぷりの愛情が満ち満ちている。最後に、本作を紹介してくれたYNN氏に感謝を述べて以上を感想とさせていただく。