タケル・イダイヤの冒険

とにかく感想

ノルウェイの森の感想

・本音

上巻を読んだ時点では、なんて妄想的なんだろうか、こんな男にとって
都合のいい女の子(緑)がいるものかという憤り?とちょっとした不快感
を感じた。思い返すと、「村上春樹氏は決してノーベル文学賞は取れな
いだろう、今の時代の価値観からはあまりにもかけ離れすぎている」な
んて評論家の意見を前情報として取り込んでいたことも少なからず影響
していたのだろう。しかし、下巻で、緑が私が眠るまで抱いてして欲し
いとつぶやき、ハツミがどうして私だけじゃ足りないのと叫んでいる姿
を見た時、私の心は既に物語の中にあった。私が彼女らの何に惹かれた
のかというと、それは恐らく一点の曇りもない本音をぶつける姿が新鮮
で愛おしく感じられたのだろうと思う。つまり、上巻で私が憤っていた
のは、主に緑の言動が余りにも本音丸出しであったために、非現実的で
、都合の良いように描かれたキャラクターに感じられたということであ
る。まあ、本音そのものが自分にとり都合が良すぎるということも言え
るわけであるが、それは個々の場面で変わってきてしまうので置いてお
くとして、大概の人々は日常において本音を滅多に出さない。それが結
果的にメリットの大きい場合が多いことは間違いないが、時としてむし
ろ本音を出せないことによりデメリットが生じてしまうこともある。で
あるからこそ、ことデメリットの部分が出てしまうと我々がおもいがち
な恋愛という場面において、堂々と本音をさらけ出す彼女らの姿が、私
を含める読者を魅了するのだろう。また、これらが指し示しているのは
、大変おこがましいことであるが、経験から来る私の負の感情を圧倒的
な表現力で見事に上書きした村上春樹氏の力?はやはり見事としか言い
ようがないという事実である。