タケル・イダイヤの冒険

M1.2023

大学お笑い世代と高偏差値お笑いの台頭、新時代を予感させるメンツで始まった今大会は、その代表格の優勝により、 名実共にその到来を決定づけるものとなった。

私は1本目から令和ロマンの虜になり、最終審査では人志氏のプレートの行方を固唾を飲んで見守った。 この感覚は、霜降り明星以来と言える。両者の共通項は「若者」にある。かつてのダウンタウンに代表されるように、 新たなお笑い(というか文化全般)はいつも若者によって創られる。恐らくあの夜令和ロマンに惹かれた若者達は単純な 面白さに加えて、どこかで次代を率いるスターの誕生を望んでいたのではないだろうか。

一方で両者には明確な違いもある。5年前、明星が「リアス式海岸、日付変更線、組体操」と一貫して全年齢対象のネタを 繰り出し茶の間を沸かせたのに対して、令和ロマンは「一人タックスヘイブン、新しい学校のリーダーズ、ログインパスワード」 とある程度の常識を持ちかつ若者に刺さるネタを繰り出した。 遡れば、とろサーモンミルクボーイマヂラブ錦鯉も前者に括られるだろう。しかし、前王者ウエストランドは、 フォーマットこそ毒舌モノと由緒正しいが、「佐久間宣之、コント師のメッセージ性、YouTuberが捕まり始めている」など、 その業界にいる審査員はともかく、お笑い界をある程度把握している若者にしか届かないであろう構成のネタであった。 言わずもながら、こういった「俺だけがわかるぞ」的なノリはわかる層に優越感を生じさせるなどその文化に独特な効果を及ぼす。 しかし、これもまた自明であるが、そういったノリは多くの文化で繰り返されてきたものでもある。 ともかく、この特筆すべき流れは、 高齢の審査員や一般視聴者層の大部分に受け入れられない可能性というリスクと、それらを見事反故にした実績も相まって 大きなインパクトをもたらしている。

さて、ここまで高偏差値ネタとして令和ロマン氏を評価してきたが、彼らのネタには加えて 「今日マジで全員で考えよう」「校門が二つは面白くない」等メタ視点を 入れ込むという特徴も観られる。これらは、観客を否が応でもネタに引き込むことができるため、 一層面白さを増幅させたに違いない。

続いては、こちらが高偏差値お笑いの大本命であろう、真空ジェシカである。 3回目の出場となる彼らの本作は、世界観の統一に努めたものだった。映画館という場所に加えて、言葉あそびという要素で 2重に世界観を統一した上で、従来の高偏差値パワーワードを繰り出したことで、文句のつけようのないネタに仕上がる可能性が あったといえる。私は、検索エンジン、映画泥棒winの瞬間などがお気に入り箇所である。一方で、世界観の統一により、 ネタが限定されてしまった感も否めない。「君たちをどう殺すか、クローン沢あきら、今科、忙しいロードショーおじさん」等、 面白くはあるのだがより鋭くツボをえぐるネタがあり得たのかもしれない。

ダンビラムーチョのネタは私が無類のカラオケ好きであり、かつ私を含め必ず誰かしらが選曲する天体観測がメイン で扱われていたことから、ことさらに魅了された。あの冒頭、長いのが面白いというのは真理であろうと思うので、審査員の コメントにはあまり賛同できない。その他、キセキの歌唱中、オリジナルガイドボーカル機能が友達との合唱でしかなかったり (男同士で歌うと、声が似すぎていて微妙な感じになってしまうのはあるある)、ダムチャンネル的なやつ(出てくる歌手、 司会含めて誰も知らない)、謎の消費カロリー表示、玉置浩二現象など共感の連鎖に爆笑できるネタだった。後、紅白で話題を 掻っ攫うことになる2023年の代表曲YOASOBIのアイドルが含まれていたのも良い。我々の世代には刺さるネタだったのでは ないだろうか。これは余談だが、その年の代表曲というのが存する年がある。例を挙げると、2013の女々しくて&恋する フォーチュンクッキー、2015のドラゴンナイト、2016前前前世2017恋2018lemonあたりだろうか。それで言うと2023は 間違いなくアイドルだろう。

最後に、終始好みの世界観だったカベポスターに触れたい。確かに、テンポが緩く笑いの数も少ないm1に不向きなネタ だったのかもしれない。しかし、しかし昨年に引き続いて本当に好きなコンビだ。永見氏の無邪気を装った悪いキャラが 本当に面白い。校長と若い女教師に対するどう考えても不倫としか思えない状況説明、願いを叶える遊び?を装った 小賢しいゆすり、「ズッゼリ」という絶妙にダサい略称。そして、何故かそれを受け入れている女教師「この中にズッゼリが いるわね!!」。今後も大注目のコンビである。

敗者復活戦も審査方法が変わり盛り上がりを見せた本大会。 お笑い界に新たな潮流とスターを生み出して2023を締めくくる大笑いで日本を包んでくれた。ありがとう!!