タケル・イダイヤの冒険

とにかく感想

ドライブ・マイ・カー(映画)(監督:濱口竜介)の感想

テーマは家族だ。一つは、家福とみさきの関係。初対面時、二人の間には絶壁が存在していた。マネージャー家での食事会で、 家福がみさきに素直な感謝を伝えたことで、二人の距離は徐々に縮まっていく。この暖かな食事会では、みさきは当然として、 他の面々も必要以上に話そうとしない。これは友人や職場の飲み会とは異なる様相だ。この時点の4人が家族かというと、 そんなわけはないのだが、家族(夫婦)の家、という環境が少なからず作用しているとは考えられる。また、 必要以上には話さないが、大切な会話(感謝)はそこで行われる。因みに、ここのソニアの発言がホッコリする。 「出演者もそんなふうにもっと褒めてください」

家族が真価を発揮するのは非日常に接したときだ。非日常に焦り動揺する時、家族という日常が側にあることで、 均衡を保つことができる。本作では、終盤高槻が離脱し、家福は激しく動揺する。警察署の前で、マネージャーらと家福が激しく 問答を繰り広げる中、車の反対側には何食わぬ顔で、タバコを吸いながら成り行きを見守るみさきの姿がある。 わかりやすい日常と非日常の共存だ。みさきは自ら家福に声をかけようとはしないが、どこかゆっくり考えられるところを、 と手を差し伸べる家福に対して確かに応答する。相談に乗ってくれたり、忘れさせてくれたり、これが家族だ。

家族といえば、家福と音の関係はまさにそれだ。家福は、不倫をした音と向き合うことから逃げてしまったことを悔いた。 これを、不倫をされた側が後悔しているという、違和感の感じられる場面と取ることもできよう。しかし、それはあくまでも社会の倫理でしかない。 そういう倫理を時に超えて、繋がりたいと思い、或いは繋がっていなければならないと思わせる力が家族にはある。

「ええ、もちろん。私は思う。真実というのは、それがどんなものでもそれほど恐ろしくはない。 一番恐ろしいのはそれを知らないでいること」